2014.1.8 更新
自宅にエスカレーターのある金持ち
エスカレーターの登場する漫画作品は多かれど、「これは!!」と思ったのはこの2作品です。
尋常ではない金持ちばかりが集まった有閑倶楽部のなかでも、さらに頭ひとつぶんとびぬけた金持ちである、剣菱財閥の自宅ロビー、1-2階部分の巨大な階段ですが、これが「ウィーン」と言って動いています。現実問題としては、手すりが東芝の垂直落下タイプどころではない急角度で垂直落下している(しかし、猫が手すりに乗っていることからして、この手すりは動くことが想定されているようですね、素晴らしいです)、ステップの水平部分が一切ないので乗り降りが至難の業、幅がエスカレーターの法定サイズを超えまくっており大変危険、といった問題がありそうですが、「金持ちの家の限度を超えた馬鹿馬鹿しい調度品」のひとつとしてエスカレーターが使われている例であり、エスカレーターのある種のゴージャスさ、非日常性を実によく捉えた、素晴らしい描写かとおもいます。
そうです、自宅にエスカレーターなんてじつに馬鹿げていますよね。見果てぬ夢です(ため息)。
出典:一条ゆかり(初版発行1982年、デジタル版発行2012年) 『有閑倶楽部 1巻』 集英社(りぼんマスコットコミックスDIGITAL)
こちらは、よしながふみ先生の、BL漫画です。
じつは私はこれを先に読んでいたのですが、よしなが先生は有閑倶楽部の上記の描写を下敷きにしている可能性があるのではないかと思います。
私立帝能大学のアホのような金持ちが多い内部進学者のうちのひとり、某シェアNo.1自動車メーカーの社長の息子、倉沢の自宅です。
セリフをそのまま引用しますと、「家の中にエスカレーターがあるようなこっぱずかしい金持ちとはつきあえないのよ!!」とあります。有閑倶楽部における剣菱財閥が、そのままストレートに「家の中にエスカレーターがあるようなこっぱずかしい金持ち」の描写であったのに対して、それをよりメタな視点で引用した、じつにポストモダン的エスカレーター利用といえるわけです。しかもらせん状。このような文脈で、スパイラルエスカレーターが登場することに私は軽く感動を覚えました。現実問題としては、こちらはどうも手すりが動くようにはなっていないようですが、ステップにはきちんとクリートがあります。やはり水平部分が足りなさそうなため乗るのは難しそうですが、綺麗な半円を描くスパイラルは、じつに金持ちの家にぴったりな無駄な豪奢さではありませんか。
自宅にスパイラルエスカレーターなんて、私ですら思いつかなかった夢でありました。よしなが先生、ありがとうございます。
出典:よしながふみ(初版発行1998年、新装版発行2008年、デジタル版発行2011年) 『1限めはやる気の民法①』 リブレ出版(ビーボーイコミックス)
※BL注意