世界で唯一、日本の三菱電機だけが製造している曲がるエスカレーター『スパイラルエスカレーター』。これに出会うことがなかったら、私はここまでエスカレーターに夢中になることはなかったであろう。
このスパイラルエスカレーター、全設置箇所のうちのおよそ半数が日本にあるのだが、国内は特にバブル期に計画、建築されたものが多いため、今ちょうど建て替えラッシュが起きている。見てまわっている最中から「どこかしら哀愁の漂ってる建物が多いな」と思っていたが、いよいよその数が減っているのだ。全箇所まわりたいなら、早ければ早いほど良い。
そんなわけで、エスカレーターの日(3月8日)を記念し、私の巡った国内スパイラルエスカレーターの全設置箇所をまとめておこうと思う。ちなみに、全設置箇所リストは三菱電機稲沢製作所に掲示されているのだが、一般に広く公開されている施設ではなく、リストをそのままばーんと公開していいかわからん。
ただ、ほぼ全箇所、自分で行って写真を撮ってきたので、それを並べる分にはかまわんだろうという判断である。なのでリストでだけ存在を知っている撤去済みの場所(1箇所だけ)は非公開とさせてもらう。
三菱電機稲沢製作所を訪問した日の記録はこちら
※以下、竣工年順
※現存状況、間違っていたらすみません
- つくばクレオ/茨城県/1985年/2018年閉館
- インテックス大阪/大阪府/1985年
- 広島センタービル/広島県/1986年
- 四日市スターアイランド/三重県/1988年/2020年閉店
- 天神イムズ/福岡県/1989年/2021年8月閉業
- おきなわ屋本店(ベスト電器那覇店)/沖縄県/1989年
- 山交百貨店/山梨県/1989年/2019年閉店
- 枚方ビオルネ/大阪府/1990年
- 中山競馬場/千葉県/1990年
- 三菱電機稲沢製作所/愛知県/1990年
- 米子しんまち天満屋/鳥取県/1990年
- 金沢パークビル/石川県/1991年/撤去済み
- 東急ストアすすき野ビル/神奈川県/1991年
- 心斎橋ビッグステップ/大阪府/1993年
- ランドマークプラザ/神奈川県/1993年
- NEXT21/新潟県/1993年
- NAS芦花公園/東京都/1993年
- 小倉アイム(旧小倉そごう、小倉コレット)/福岡県/1993年
- スターダスト門前仲町/東京都/1995年
- イーストビル/福島県/1996年
- 井筒屋山口店/山口県/1998年
- 天満屋津山店/岡山県/1998年
- ブリリアタワー東京/東京都/2006年
- 三菱電機稲沢製作所 SOLAÉ place/愛知県/2016年
- 海外のかっこいい事例
- エスカレーターファン必読書籍・リンク
つくばクレオ/茨城県/1985年/2018年閉館
つくば万博の開かれた1985年の3月8日に開業したショッピングセンターで、初めてスパイラルエスカレーターが納入された記念すべき場所。
全箇所まわったと豪語しておいて初っ端からあれだが、こちらは頂戴したお写真である。私が知った時にはすでにスパイラルエスカレーターは撤去済みで、かつ2018年には完全閉館している。ちなみに、自分が1984年12月生まれで、スパイラルエスカレーターとは歳が近いこともなにかしらの縁を感じる。
インテックス大阪/大阪府/1985年
現存最古のスパイラルエスカレーター。
イベントを開催しているときには中に入れない場合もあり(この時はモンスターハンターのイベントをやっていた)、何度か行く必要があるが、しっかりシンメトリー配置のスパイラルエスカレーターが動いている。
広島センタービル/広島県/1986年
広島バスセンターが運営するショッピングモール「アクア広島センター街」の中にある。柱回避の巧みな配置。
四日市スターアイランド/三重県/1988年/2020年閉店
近鉄四日市駅前のショッピングモール。名古屋のテレビ局に呼ばれるたびに紹介していて何度か訪れたが、2020年2月29日に閉店。
自然光をとりこむなかなかこだわった設計の建物だったが、名前のきらきら感とは裏腹に完全に年配の方向けのテナントラインナップになっており「哀愁のスパイラル」と呼ばしめる一因に。
天神イムズ/福岡県/1989年/2021年8月閉業
天神にたくさん集結するショッピングモールのうちのひとつ。スパイラルだけでなく、建物全体としても大好きな空間だったが、2021年度中の営業終了、再開発が決定している。
追記:2021年8月31日に閉業した
おきなわ屋本店(ベスト電器那覇店)/沖縄県/1989年
国際通りに面して建つ、土産物店。ここも、建物全体のカオスな雰囲気が好きだなぁ。
山交百貨店/山梨県/1989年/2019年閉店
甲府駅前の百貨店。当初、上下2台の設置だったのが、私が見に行った時にはすでに1台に減っていたが、2019年に閉店。
土地と建物がヨドバシカメラに売却され、2021年春オープンとのことだったが、スパイラルがそのまま残っているかは定かではない。残っていたら、スパイラルエスカレーターのあるヨドバシってことになるのでめちゃかっこいいんだけどな。
枚方ビオルネ/大阪府/1990年
京阪本線枚方市駅前のショッピングモールであるが、イオンが入っているため現在もかなり活気に溢れている。このまま頑張っていただきたい。
中山競馬場/千葉県/1990年
東京近郊で気軽に乗りに行けるスパイラルエスカレーターのうちのひとつ。
海外では、マカオとかラスベガスのカジノにスパイラルエスカレーターが設置されることが多いのだが、国内だとそれが競馬場かパチンコ店になる。
三菱電機稲沢製作所/愛知県/1990年
意外にも、稲沢製作所にスパイラルエスカレーターが設置されたのは結構経ってからのことだったのだな。
受付の係の方がボタンを押すと上りと下りを切り替えられるようになっている。
米子しんまち天満屋/鳥取県/1990年
国内では最も好きなスパイラルエスカレーターのある場所。大吹き抜け空間に美しく配置された姿に惚れ惚れ。
米子のお買い物事情に詳しくないが、ここもテナントラインナップが学生 or 年配の方向けという、まもなく閉店するショッピングモールの様相を呈しているので、心配ではある。
金沢パークビル/石川県/1991年/撤去済み
スパイラルエスカレーター設置箇所リストを見て、我が地元金沢にもスパイラルエスカレーターがあったのか!と驚嘆し、行ってみたらそのままの形で階段になっていたので二度びっくりした場所。駅前から少し離れたオフィスビルなのだが、三菱地所の持ち物であり、三菱電機が入居しているのでそういうことなのかなと思う。
しかし、スパイラルエスカレーターの角度そのままの階段は最高に面白い(何しろ必要ないところまで手すりがついている)ので、撤去済みとなってる場所もできる限り訪れなくてはと思った次第。
東急ストアすすき野ビル/神奈川県/1991年
横浜市青葉区のすすき野は、札幌のそれとは違って、駅から離れた場所に大規模に開発された団地が建ち並ぶ住宅街である。その住宅街ど真ん中の、なんの変哲もないスーパーに、スパイラルエスカレーターがあるので、わざわざ自分から見に行っておいてなんだが、いち地方都市出身者として「横浜ってなんなの」と複雑なジェラシーを感じたのだが、そのように感じる人は(横浜出身者も含め)少なくないようで安心したりする、そんな場所。
心斎橋ビッグステップ/大阪府/1993年
この頃になると、スパイラルエスカレーターの設置の仕方もデザインもかなりこなれてくる。ここはシースルーの外装板がつけられていてスパイラルエスカレーターの下部構造が観察できてしまう、すごい場所。
何も関係ないが、高校生の時(2000年ごろ)、中村一義さんのライブがどうしても見たくて、初めて一人で県外に旅行した場所がここだと思う。当時の「憧れの都会」感を今でもはっきり覚えている。あれがもう20年前のことなのか(遠い目)。
ランドマークプラザ/神奈川県/1993年
ここで「曲がるエスカレーター」に出会ったことが私の人生を大きく変えた、横浜のランドマークプラザ。シンメトリーの配置が、柱や、他の直線エスカレーターとも呼応していてとても美しい。
NEXT21/新潟県/1993年
スパイラルエスカレーターの設置箇所は、びっくりするほど太平洋ベルト地帯(という言い方は今でもするのか)に偏重している。現存するものでは、日本海側にあるのは米子とここだけ。新潟以北には1台も存在しない。
NAS芦花公園/東京都/1993年
世田谷区のなんの変哲もない住宅街に突如あらわれるスパイラルエスカレーター。もともとクイーンズ伊勢丹などが入るビルだったそうだが、現在会員制スポーツクラブとなっており気軽には乗れないものの、外からシンメトリー配置を確認できる。すすき野東急と同様、「世田谷区ってなんなの」と感じずにいられない。
小倉アイム(旧小倉そごう、小倉コレット)/福岡県/1993年
小倉駅前のショッピングモール。何度か名前が変わったが生きながらえている。レストランフロアに全4台、国内で最多のスパイラルエスカレーターが設置されている。1階ではなく上層階に設置されているというのも珍しい。
スターダスト門前仲町/東京都/1995年
門前仲町には4年ほど住んでいたことがあって、駅を出た交差点の4つの角に全部パチンコ店があったのだが、そのひとつにスパイラルエスカレーターがついている。なぜ!? と思うが、普通に今でも動いていて乗れる。
イーストビル/福島県/1996年
福島駅前の雑居ビルなのだが、スパイラルエスカレーターがついているのはパチンコ店の入り口である。
井筒屋山口店/山口県/1998年
新幹線駅である新山口駅から、かなりローカルな山口線に乗り換えてたどり着く山口駅。その駅前からさらに歩いてたどり着く商店街の中にある、地上5階建ての立派な百貨店。なぜここに系スパイラル。スパイラルエスカレーターは、商店街アーケードに面しているとはいえ屋外に設置されている。屋外もいけるんだな、スパイラル。
天満屋津山店/岡山県/1998年
津山の市街地再開発で誕生した、アルネ津山に入居する百貨店。なぜここに系スパイラル。岡山出身である次長課長さんの番組に出た時、このスパイラルの存在をお知らせすると、「岡山にもある!?」「は!? しかも津山に!?」と驚いていらっしゃった。スパイラルがシンメトリーに配置されたロビーは荘厳でかっこいい。
ブリリアタワー東京/東京都/2006年
分譲タワーマンションのオートロック内にあるスパイラルエスカレーター。
テレビ取材の時に何度か撮影を打診してもらっているのだが、月に1度の管理組合の総会にかけなくてはいけないとかで実現していない。
超高層ビルマニアの中谷さんがその姿を撮影してくれているので、どうぞ。かっこいいなぁ。
三菱電機稲沢製作所 SOLAÉ place/愛知県/2016年
2017年に稲沢製作所を最訪問した際、新しくできた建物にスパイラルエスカレーターがどどんと新設されていた。2017年時点では、これが世界で一番新しいスパイラルエスカレーターだった。スパイラルのカーブに呼応するライトが可愛い。
2010年代以降、スパイラルエスカレーターや吹き抜けを突き抜けるような超ロングエスカレーターがさっぱり国内で設置されないのは、不況の影響ももちろんあるが、「高齢化」と「バリアフリー」、「耐震」も影響していると私は思っている。
だからスパイラルエスカレーターがなくなってしまうのはある程度仕方のないこと。バリアフリーの方が重要性が高いと言われたら、それはもちろんそうだ、と言わざるを得ない。都市のそういう変化自体を観察するのが私は好きだ。ただ、数が減っていっているのは事実で、日本人ならある程度、気軽に見に行ける場所にスパイラルエスカレーターはあるので、ぜひ乗りに行ってほしい、と、この記事の主旨はそういうことである。
海外のかっこいい事例
ちなみに、全世界の設置箇所は撤去済み含めて48箇所(2017年時点)ある。「本気を出したスパイラルエスカレーターはマジかっこいい」という事例が海外には多いので、また巡礼の旅が再開できる日を待っている。
上海新世界大丸
連卡佛 銅鑼湾店(香港)
大葉高島屋(台湾)
まだ行けてないところで、サンフランシスコのNORDSTROM
ラスベガスのフォーラムショップス
エスカレーターファン必読書籍・リンク
私は15年来のエスカレーターマニアだが、エスカレーターマニアの存在をこのページで初めて知ったという人もいらっしゃると思うので、いつものリンクを貼っておく。
全ページに渡ってエスカレーターの話しかしないすごい本(自著です)
スパイラルエスカレーターの仕組みがわかりやすくまとまっているページ。
スパイラルエスカレーターは「中心移動方式」という方法を考えついたことも画期的だったが、それはもしかしたら他のメーカーも考えついてるかも知れなくて、ただ、スパイラルエスカレーターに必要な部品を作ったり組み立てる技術が職人技で、三菱しかできないのだと稲沢製作所の人が言ってた。このページには、ローラーが動くレールを手作業で曲げている(!)ことなど、詳細がちゃんと書かれている。
エスカレーター技術発展の系統化調査(PDF)
http://sts.kahaku.go.jp/diversity/document/system/pdf/055.pdf
元三菱電気稲沢製作所研究員でいらっしゃった後藤先生による調査資料。
とりあえずこの資料を読めばほとんど現在のエスカレーター知識の全てを知ることができる。
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