TOKYO ESCALATOR BLOG

エスカレーター専門サイト「東京エスカレーター」の旅行記です。なかの人は田村美葉です。

おしらせ:2017夏コミ新刊、ネットで買えます!詳細こちら。

別冊 東京エスカレーター 07

 

映画『火垂るの墓』感想:節子が象徴するものってなんだ

火垂るの墓 [DVD]

 

夏なので、『火垂るの墓』を観ました。

おそらく20年ぶりぐらいでしたが、衝撃だったのは清太さんが映画冒頭で死んでいたことです(冒頭カットバージョンがあるそうなので、前回見たのはカットバージョンだったのかも)。勝手に、妹を亡くしたあとはひとりでたくましく生きていたものと思い込んでいました。その衝撃を皮切りに、大人になってから観ると清太さんの弱さが相当浮き彫りになる別の意味で残酷な映画でした。

そのあたりはこの記事に書いてある通りです。

www.excite.co.jp

 

その「弱い清太さん」のありかたが、日本が太平洋戦争に突入してそして負けていった過程と見事に重なるなぁと思ってうなったのが今回の話です。

清太さんは海軍のお偉いさんの長男で、西宮のおばさんに散々嫌味を言われるように、かなり裕福な家庭です。病気の母親を思いやり、幼い妹、節子の面倒をよくみる清太さんは、父を崇拝しており不在である父の教えた規範にのっとって正しく生きています。

それが、母を喪って身を寄せた西宮のおばさんの家では、その正しさが通用しません。たとえば、母の着物と物々交換で手に入れたお米を、おばさんは働きに出る身内にはおにぎりにしてもたせますが、「家の中でダラダラ過ごしているだけ」の2人には水っぽい雑炊しか食べさせてくれません。それを見て節子は「うちのお米やのに……」と言いますが、その考えは子どもの正義です。ただ、2人には自分たちが間違っているということがわからない。そしておばさんの大人の嫌味、文句があるんだったらご飯べつべつにしましょう、そんなに命が惜しいんだったら横穴に住んだら、というのをそのまま真正面から受け止めて、自炊を始め、家を出て衛生状態の悪い横穴で暮らし始めてしまいます。

そのあと農家のおじさんに「お金や着物があっても、いまは分けてあげられるだけの食べ物はどこにもないのだから、配給を受けるためにも隣組に入らなくてはいけない、おばさんの家に戻りなさい」と諭されますが、いちばん近くにいた規範である父と母を喪った清太には、その、いま生きている時代の新しいルールを受け入れることができません。身寄りもあれば、母の多額の貯金もありながら、「ルールを知らない」というただ1点のために、破滅への道を歩んでしまうのです。

おばさんの家を出て行くときの清太の姿は、ほとんど国際連盟を脱退した時の日本の姿、「わが代表堂々退場す」と重なります。それまで信じていた帝国主義の正義を頑なに守るため、どんどん変わっていく国際社会のルールを受け入れられなかった日本、という図です。

そういうふうに観ると、清太さんの行動ひとつひとつ、表情ひとつひとつの描写がなんとも残酷でうなるわけなのですが、問題は節子さんのほうですね。

この節子さん、幼くかわいい守るべき存在、純粋な存在として終始描かれているわけですけれども、清太ののめりこみっぷりが尋常ではない点が気になります。冒頭、衝撃を受けた理由もここにあって、おそらく妹がいなくなって清太ひとりになれば、戦争も終わって空襲ももうないし生きていく方法があったのではないかと私は思っていたんですが、それがあっさりと「生きがいをうしなった」みたいな感じで清太は死んでしまいます。

もう1点は、高畑勲監督の描く幼女が似通いすぎている、という問題です。

最近同じく「アルプスの少女ハイジ」を観て、かぐや姫とまったく同じ笑い方するなぁと思ったのですが、節子も同じです。嬉しいことがあると、野山や砂浜を笑い転げる。それがなんというか、「大人の目線でみた子どもの可愛らしさ200%」という感じなんです。基本的に(風立ちぬ以外)子どもが観ておもしろいと思えるように映画をつくっている宮崎駿監督作品での子どもの描かれ方とだいぶ違うと思います。ハイジのおじいさんもハイジにのめりこむあまり途中生き別れになるとめちゃくちゃにすさんでしまったりしましたけれど、なんなんでしょう。かぐや姫を観たときも思いましたけれど、女の私にはちょっと理解しがたい部分もあります。

そういう理解しがたい部分があるほうが映画っておもしろいよね、と思うのですが、高畑監督作品特有の言ってしまえば「気持ち悪さ」がなんとも気になるこの頃なのでした。

 

ちなみに「アルプスの少女ハイジ」はこれまで噂しか聞いたことがなく初めて観たのですが、ハイジが拉致されてフランクフルトの豪邸で過ごしてどんどん具合悪くなっていくターンがあることを観るまで全く知らず、なかなかにエキセントリックで原理主義的な文明批判がとてもおもしろかったです。そのあたりのことも含めて、高畑監督作品をしばらく集中して観てみようと思っています。次に観たいのは「平成狸合戦ぽんぽこ」。

 

火垂るの墓 [DVD]

火垂るの墓 [DVD]

 

 

アルプスの少女ハイジ リマスターDVD-BOX

アルプスの少女ハイジ リマスターDVD-BOX

 

 

  

blog.tokyo-esca.com