船とエスカレーター

船に乗ったりエスカレーターに乗ったりする旅行記中心のブログです。なかの人は田村美葉です。

娘が父に贈る歌  Kerris Dorsey(ケリス・ドーシー)『The Show』


実話をベースにしたストーリーのおもしろい映画だから、半ば安心して、引き込まれて観ていたのだけど、この歌の登場するシーンで息の止まる思いがした。 

 

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面会日に元妻の家を訪れたビリー(ブラッド・ピット)。妻と、その現在のパートナーとのぎこちない会話を終えて、新しいギターを探している娘ケイシーと楽器屋へ行く。「ちょっと弾いてごらんよ」なんていうビリーに対して、はにかみながらギターの弾き語りで自作の歌(という設定だったと思うがうろ覚え)を披露してくれるケイシー。その歌が、奇跡的なまでにパーフェクトなのだ。

 

今 困ってるの

人生は迷路 恋は謎々
どうしよう 一人ではムリ
やってはみたけど
わたしは 戸惑う女の子
怖いけど 澄まし顔
答えが見えない
でも そんなの忘れよう
そして楽しもう
ゆっくり 止まって
心臓がはじけそう
だってムリ これ以上
違う人の フリなんて
愛の枯れた オバカさん
また迷ってる
 
もう少し歳をとっていれば、父親の前で、しかも楽器屋さんなんかで弾き語りなんて断固拒否し、離れて暮らす父との心のすれ違いのシーンになっただろうし、もう少し幼ければ、ちょっとへたっぴな拙い演奏で微笑ましい、というシーンにとどまるだろうが、ケイシーの歌はこのときこの時点において、ほぼ完璧である。
ギターも。歌詞も。歌も。
 
恋愛や、ほかにもいろいろ、なんだかうまくいかない、迷ってる、ていう、思春期に入りかけの女の子の気持ちを、なにもかっこつけずに、脚色せずに、ただそのままで歌ったうた。
でもこれが、ビリーの心情とぴったり重なり合っているのだ。
 
ビリーは将来を期待されてプロ球団に入団したものの、活躍できず選手時代を終え、大きな挫折を経験した人物である。球団のスカウトマンとして新たなチャレンジをしようとしているが、まだまだうまくいかずに、立ち止まることも多い。
一見、本筋のストーリーとなにも関係のない娘とのシーンが、この映画を見たひとの多くに強い印象を残す。この映画は、単なる実話を元にした成功譚ではなく、この歌どおり揺れ動きながらも自分の道を見つけようとするビリーの人生に焦点が置かれているからだ。
 
子どもが親を慕う、まっすぐで強い感情は、ときどきこういう奇跡をもたらすのかもしれない。なんてことを少し思った。