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史上最悪のジャングルクルーズ『地獄の黙示録』

地獄の黙示録』(完全版)という長い映画をがんばって観たら最後まで観たところで「やっぱりこれ一回観たことあったー!!」となったので、せめてレビューでも書きたい。

川好きとして「川映画」レビューをとあるドボク同人誌(※)に書いたことがあるのだが、『地獄の黙示録』は文句なく川映画だった。もし第二弾を書くことがあればこれはその準備稿ということになる。

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60年代以降のアメリカ文化を理解するにあたっては、「ベトナム戦争」についてのある程度の知識が必要になる。劇中でも使用される、ローリング・ストーンズドアーズといった、頽廃的なロックミュージック。慰問に訪れるプレイガールたち。映画『タクシードライバー』のような、後に続く作品における「後遺症」は、明示的なものも多数あるし、暗に影響を受けているという意味ではほとんど全ての作品が該当するかもしれない。というところまでは予備知識があったのだが、二回目にして私が得た感想は、「ディズニーランドのジャングルクルーズって、ベトナム戦争が原型だったんだ……超狂気……」というものである。(いうまでもなくこれは妄想で、ディズニーランドにおけるジャングルクルーズの登場は1955年とのことです)

小さなプラスチック舟にイカれた陽気な乗組員が5人。川を遡ると次々とあらわれるイカれたアトラクション。敵弾のど真ん中での裸のサーフィン、プレイガールたちの夜のダンス、美しいイルミネーションが煌々と着けられ、そのまま爆撃で崩れてゆく橋、左右からの銃撃、忽然とあらわれる「フランス文明」、おもちゃの矢、狂気の宮殿。
 
戦争映画、特に軍隊に焦点を当てたものでは、第一次大戦モノ、『シンレッドライン』みたいな第二次大戦モノ、一番最近なら『アメリカンスナイパー』といろいろみたけれど、ベトナム戦争の異色さはやはり際立っているように見える。準備稿なのでとても乱暴に書くと、戦争映画はおしなべてマッチョな男の物語であり、父親殺しの系譜にあるもので、巨大な権力、暴虐な指揮官の前にむざむざと殺される仲間たち、とかそういう構図になるのだが、ベトナム戦争の場合、指揮官がなんだかはっきりしない。なんのために闘ってるのかよくわからない。どこからか現れる敵に向かって、闇雲に撃たれたから、撃ち返す。それはベトナム戦争の「川感」が密接に関係しているように思う。特に、『地獄の黙示録』におけるウィラードの部隊はそうだ。部隊があり、作戦があり、指揮官がいて、自ら進んでゆくのではない。ただ川に身を委ねて(正確には遡っているのだが)流れてゆくだけ。とてもアトラクション的であり、ジャングルクルーズ的である。
 
物語の終盤、カーツ大佐がウィラードに、唐突にオハイオ川のことを尋ねるシーンがある。昔、自らもただ遡ったことがある、と伝える、特に何の意味もないシーンである。ただ、川を舟で遡る、ということをしたことがある者なら、そこでイメージする。滔々と流れる川をただ漕いでゆく情景を。自分の意志で立ち向かっていく、歩いていくのとは違う、日々の風景の刹那感。「次に何が起こるのか?」ということに対して、ただただ無力なまま、流されていく感じ。
 
ウィラードが流されてゆく景色は次第に狂気を増し、「一周」して元に戻ってくることはない。史上最悪のジャングルクルーズなのだ。